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「お前ら……、誰だ。誰なんだよ!」  気が動転したユウトは、頭を抑えた。その拍子に触れたこめかみに、あのイボのようなチップの感触がして指を止める。  おかしい。すでにチップは外したはずだ。指でイボのような突起をひっかくが、へばりついて取れない。 「どうしましたか? 落ち着いてください」  紗江の顔をした女性がユウトに手を伸ばす、その手を振り払おうとした拍子に、こめかみから『なにか』が剥がれ落ちた。 「――入った! 小花ユウト選手、スリーランホームラン!」  テレビの中から声がして、ユウトは顔を上げた。画面にノイズが走り、高校球児たちの顔がユウトの顔に変わっていく。 「なんなんだよ、なにが起こってるんだ」  視界が歪み、白い室内にノイズが走る。まるで2つのアバターしかない、ゲームの世界みたいだ。 「小花ユウトさん。落ち着いてください。幸福値が下がっています。アプリを開いて、幸福の摂取時間を確認しましょう」  スマホから、あのケーキ作りが得意な女性の声がする。スマホからだけではない。天井のスピーカーやテレビ、室内にあるすべてのスマホや電子機器から、あの女性の声が流れてくる。 「小花ユウトさん、急激に幸福値が下降しています。早急に幸福を摂取しましょう」 「いったい、お前は誰なんだ!」  ユウトが叫んだ時だった。  ひどい頭痛に襲われ、ユウトはその場に倒れこんだ。視界が光とノイズに覆われ、景色が歪んで見える。仰向けになったユウトの頭上に、影が差す。  顔が分からない。顔があるかさえ分からない。 「――今、何層目だ?」  数人の声が重なって聞こえた。何百回、何前回と聞いたような懐かしい声が、耳の奥で繰り返し反響する。  この階層も駄目だったらしい。  漂う甘い香りに包まれて、ユウトは静かに目を閉じた。
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