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「背もたれに肩をつけて、なるべく楽な姿勢で、リラックスしてください」
彼女は男性スタッフに指示を出し、ユウトのこめかみに何かを貼りつける。ひやりとした感覚が不快で、ユウトはこめかみに触れようとした。その手首を女性スタッフが掴む。
「脳に映像を送り込むチップなので、こめかみには触れないでください」
彼女はユウトの手首を離し、診察室を出て行った。
こめかみの違和感が消えず、ユウトは身をよじる。
『それでは皆さん。肩の力を抜いて、呼吸を整えましょう』
天井に設置されたスピーカーから、男性の声が聞こえてきた。
きっと、チップを貼る前にアルコールで肌を拭かれたせいだろう。こめかみがかゆくてたまらない。
ユウトは子供のころから肌が弱く、お酒が一滴も飲めないほどだった。我慢しようとするほど痒くなり、耐えられずにこめかみに手をやる。指先に、おできのようなチップが触れた。照明が落ちたのを見計らい、その周りをこっそり掻く。
『ジュウ、キュウ、ハチ、ナナ、ロクーー』
静かに肌を掻く指の動きに合わせるように、カウントダウンが始まった。
(しまった)
診察台の背もたれが倒れ始めたとき、指がチップの端に引っかかる。
『ゴ、ヨン、サン、ニ、イチーー』
剥がれかけたそれを直す暇もなく、意識は深い暗闇に落ちていった。
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