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「こんなの、隠しちゃえばいいの!」  スポンジケーキをひっくり返して金網にのせると、紗江は「冷めたら私がデコレーションするから」と、ソファで本を読み始める。 「ほら、これで分かんなくなったでしょ?」  焦げたスポンジケーキを四層のデコレーションケーキに変身させた紗江に、ユウトは感心する。柄にもなくお菓子作りを手伝ったが、余計な手間をかけさせただけだったかもしれない。 「お菓子作りのコツは失敗を気にしないこと。ただし、中になにを入れたのか、忘れないようにね」  得意げに言った紗江は、四層の大きなケーキを持ち上げた。  今日は両親や親しい友人たちと、ホームパーティーを開く予定だった。そろそろ招待客が来る頃だ。彼女はケーキを片手に持ち、冷蔵庫のドアを開けた。 「あーー」  手元のバランスを崩し、彼女は短い声を漏らす。次の瞬間にケーキは床にたたきつけられ、柔らかいクリームとスポンジが崩れた。 「それから、絶対落とさないことも大切だね」  彼女はため息をつきながら言うと、つぶれたケーキを前に立ち尽くす。 「けがはない? 俺が片付けるから座ってて。ケーキはいいよ。あとで買ってくるから」  ユウトは紗江をソファに座らせ、ケーキを片付け始める。  ようやく床がきれいになったとき、チャイムが鳴った。どうやらもう、時間のようだ。 「いらっしゃいーー」  約三か月の幸せな日々だった。  現実世界のことなど忘れ、幸福を摂取し続けた。ユウトがドアを開けた瞬間、光に包まれ意識が遠のいていった。
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