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軽やかな鐘の音とともに、スピーカーから女性の声が聞こえてくる。
「……幸せは何でもない日々。けれど、大切な日々。おかえりなさい、皆さん。静かに起き上がり、チップを外してください」
夢を見るのは浅い眠りの時だというが、途方もなく深く体が沈み込むような夢だった。まだ半分夢の中にいるユウトは、もうろうとする意識の中で幸福に浸っていた。
あれが本当の幸福だった。本当は手に入れられた幸福だ。
「ご気分はいかがですか? 今回が初めての幸福摂取ということで、いくつか問診をさせていただきますね」
「すみません、ちょっとーー」
満たされた気持ちが零れ落ちないうちに、いてもたってもいられなくなった。剥がれかけたチップを外し、ユウトは診察室を飛び出した。
「もしもし、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
電話をかけたのは、幼馴染のシュウタだ。彼は紗江がケーキを落とした日も、ホームパーティーに来る予定だった。家族ぐるみで中が良かった彼なら、紗江の連絡先をまだ知っているかもしれない。知らなくても、彼女に繋がる情報を得られたら。
「実は、紗江の連絡先を知っていたら教えてほしくて」
「紗江? 誰だ、それ」
ユウトの淡い期待を、幼馴染の冷たい声が遮る。
「ほら、紗江だよ。離婚した」
まさか、彼は紗江に口止めをされているのかもしれない。今の体たらくも、彼女には知られているはずだ。避けられても無理はない。
「離婚? 誰が?」
「だから、俺がだよ。お前も知ってるだろ? 結婚祝いも送ってくれたじゃないか」
ユウトが言うと、電話越しにため息が聞こえた。
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