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「あのさ、あんまり言いたくないんだけどさ。もう連絡してこないでくれる? お前も両親が亡くなって辛いとは思うけどさ、俺もちょっと今、自分のことで大変でさ。お金は返さなくてもいいよ。それよりも、正直なところ、お前とはちょっと距離を取りたいんだ」
「なに言ってんだよ、シュウタ」
「ごめんな。まあ、お互いにさ、大人だし。分かってくれるよな?」
居心地が悪そうな声を残し、電話は切れた。
「なんだよ……」
ユウトはスマホを振り上げ、投げつけようとしたが、腕をおろしてジャケットのポケットにしまう。
「――やっぱり小花ユウトだな、あんた」
声がして、ユウトはサングラスもマスクも外していたことに気づく。慌ててサングラスをかけようとしたが、そんな隙もなく、指をさしながら男が近づいてくる。
「いやに背の高い男がいるから気になって見てみたら、まさかあんたがここにいるとは。実は俺も昔、野球をやっててさ、あんたのファンだったんだよ。サインってももらえる?」
「いや、サインはちょっと」
興奮した面持ちの無精ひげを生やした男から、ユウトは顔をそむけた。男はうつむいたユウトの顔を覗き込み、ぎょろついた丸い目をぶしつけに向けている。
「高校野球のころからあんたのこと応援しててさ、まさかこんなところで会うことになるとは。まあ、あんたの人生も散々なものだったからなぁ。野球賭博だか、ねずみ講だか、特殊詐欺疑惑だかでさ、プロ野球界を追放されてさ。あれ? 結局なんでやめたんだっけか」
「全部です。あなたが言ったもの、全部が理由です」
ユウトはぶっきらぼうに応えた。急に冷めた気持ちになり、観念して顔を上げる。
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