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僕には、彼女の言った言葉の意味がわからなかったけど、泣いている彼女を放っておけなくて、手を差し伸べた。
「一緒に行かない? 僕の村へ」
「いいのか? こんな得体の知れない女を連れていって」
「関係ないよ」
僕は首を振って答えた。
「泣いている女の子には、優しくしてあげなさいって、父さんから言われているんだ。だからほら、一緒に行こう」
「……そうか」
僕がそう言うと、彼女は恐る恐るといった様子で、差し出した手に、そっと指を重ねた。
指先から感じられる、確かな熱。
しかしその熱は、今にも失われてしまいそうな程に、か弱いものだった。
だから僕は、重ねられた指をしっかりと掴み、互いの指を沿わせるよう、優しく握りしめる。
彼女のその熱が、決して消える事が無いように。
「──僕はフォリア。フォリア・クアトール。君は?」
「私は……」
名を聞かれ、狼狽える彼女は、ゆっくりと口を開いた。
「──テラ。私の名前は、テラだ」
そう言って彼女は、僕の瞳を真っ直ぐに見つめて、笑った。
これが俺と、テラの出会いの流れであり、そして、破滅へと導かれる、ふざけた運命の始まりだった。
俺はこの時の事を一生忘れないだろうし、後悔し続けるだろう。
あの時、か弱い熱を、この手で屠り去っていたら、と。
目を閉じた先に広かる業火は、消える事のない心の闇を、ひっそりと照らしていた。
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