3人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
【一章:炎。】
その後、僕は彼女を連れて村へと戻り、村長に事情を説明した。
すると村長は「外周の魔物たちから逃げて、森の中に迷い込んだのかもしれない」と、彼女をこの村の一員として受け入れてくれた。
僕はその事を嬉しく思ったけど、どうやら彼女は違ったらしく、不満げというより、訝しむように口を開いた。
「随分と軽いんだな。こんな得体の知れない女を、容易く招き入れるなんて」
「ここに暮らす人達は、みんな良い人しかいないからね」
「……良い人、か」
僕の言葉に、納得がいかない様子のテラは、何処か遠くを見つめるように空を見上げた。
僕は彼女に何があったのか、なぜ石碑の前で佇んでいたのか、聞かない事にしていた。
聞いてしまう事で、彼女の心を抉ってしまうのが怖かったからだ。
誰にだって、触れられたくはない心の傷がある。
彼女の様子を見るに、何か事情があってここまで来たのだろう。
それが一体どんな事情なのかは、今はまだ、聞かなくてもいい。
「ほら、早く行こう? 父さんと母さん、妹が帰りを待ってるんだ。君の件で話し込んだから、すっかり遅くなっちゃったし」
「ちょっと待て。まさか私は、君の所にお邪魔するのか?」
驚いた表情のテラに、僕は何の迷いもなく頷いた。
「……お人好しが過ぎるんじゃないか?」
「そうかな。でも、さっき言った通りだよ。ここで暮らす人たちは、良い人しかいないって」
「ハハ。まさかそれに、自分も含まれているのか?」
「当然」
そう返すと、テラはふっと吹き出して、笑ってくれた。
その時の彼女は、初めて会った時と比べても、表情が柔らかく、そして少しだけ、心の内側を覗かせてくれたように見える。
僕はそれが嬉しくて、彼女の手をひき、駆け出した。
最初のコメントを投稿しよう!