【一章:炎。】

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【一章:炎。】

 その後、僕は彼女を連れて村へと戻り、村長に事情を説明した。  すると村長は「外周の魔物たちから逃げて、森の中に迷い込んだのかもしれない」と、彼女をこの村の一員として受け入れてくれた。  僕はその事を嬉しく思ったけど、どうやら彼女は違ったらしく、不満げというより、訝しむように口を開いた。 「随分と軽いんだな。こんな得体の知れない女を、容易く招き入れるなんて」 「ここに暮らす人達は、みんな良い人しかいないからね」 「……良い人、か」  僕の言葉に、納得がいかない様子のテラは、何処か遠くを見つめるように空を見上げた。    僕は彼女に何があったのか、なぜ石碑の前で佇んでいたのか、聞かない事にしていた。  聞いてしまう事で、彼女の心を抉ってしまうのが怖かったからだ。  誰にだって、触れられたくはない心の傷がある。  彼女の様子を見るに、何か事情があってここまで来たのだろう。  それが一体どんな事情なのかは、今はまだ、聞かなくてもいい。 「ほら、早く行こう? 父さんと母さん、妹が帰りを待ってるんだ。君の件で話し込んだから、すっかり遅くなっちゃったし」 「ちょっと待て。まさか私は、君の所にお邪魔するのか?」  驚いた表情のテラに、僕は何の迷いもなく頷いた。 「……お人好しが過ぎるんじゃないか?」 「そうかな。でも、さっき言った通りだよ。ここで暮らす人たちは、良い人しかいないって」 「ハハ。まさかそれに、自分も含まれているのか?」 「当然」     そう返すと、テラはふっと吹き出して、笑ってくれた。  その時の彼女は、初めて会った時と比べても、表情が柔らかく、そして少しだけ、心の内側を覗かせてくれたように見える。  僕はそれが嬉しくて、彼女の手をひき、駆け出した。
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