【一章:炎。】

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 それから僕は、彼女(テラ)が村に来てから一年経った事の記念と、僕自身の想いを伝える為に、再び石碑のある場所へとやって来た。  理由は、一年ぶりにこの場所を訪れたかったのと、ここにしか咲かない花──シロバの花があるからだ。  四つの葉が開き、そこから白く美しい花になるシロバには、花言葉がある。 「約束」「幸運」「私のものになって」。  最後のは少し重い気がするけど、彼女とずっと一緒にいたいという想いは、変わらない事実だ。  初めて会ったあの日から、僕の脳裏には、涙を流す彼女の姿が、焼きついて離れなかった。  なぜ彼女は泣いていたのか。  いくら聞いても、はぐらかされるばかりで、理由はわからず終いだった。  だから聞くのはやめたけど、もしかすると、この先も彼女は、ああして心にも無い笑顔をしたまま、涙を流す事があるかもしれない。  そのとき僕は、何が出来るだろうか。  それもわからないけど、共に生きて、彼女を支える事は出来るんじゃないか。  そう思い、僕は再びこの場所へと足を踏み入れた。  今にして思う。僕が偶々、この場所に来なかったら、彼女は一体どうしていたのかと。  ──自死。  ふと、そんな物騒な言葉が脳裏を過り、僕は慌てて(かぶり)を振った。  今日はやけに、余計な事ばかり頭に浮かぶな。  そんなふうに考えながら、僕は石碑から何本かのシロバの花を摘み、テラ達のいる村へと帰った。  そして、帰る道中。  村で何か異変が起きている事に気付き、駆け出した。
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