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【序章:竜と仔。】
僕の暮らす村から、少し離れた森の奥に、大きな石碑がある。
そこは遥か昔、村を守護していた竜のお墓らしく、周りにはシロバの花が咲き、燦々と煌めく太陽の光が、その石碑を照らし出していた。
そこで僕は、とある女性と出会った。
「──人の仔か?」
僕の存在に気付いた彼女は、深くて青い瞳を向け、玲瓏な声をかけてきた。
僕は彼女の、あまりの美しさに見惚れてしまい、暫くのあいだ、声を出せなかった。
数秒たち、やっとの思いで発したのは、純粋な疑問。
「君は、どうして泣いているの?」
石碑の前で、今にも消え入りそうな様相で佇む彼女は、感情を見せない、貼り付けた笑顔を浮かべたまま、涙を流していた。
怒りか、悲しみか、憎しみか。
涙を流していても、優しい微笑みを浮かべている事から、彼女がどんな感情を抱いているのか、まるでわからない。
そんな彼女は、僕の問いに対し、「昔を思い出していただけだよ」と、笑って答えた。
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