いい“くすり”だ

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 令和の世も、はや5年が経とうとしているが、いまでも“昭和”を地でいくような男がいる。上野(うえの)達哉(たつや)、50歳になる。勤務先では、有無を言わせぬ職場改革を次々と断行して、多くの実績を残し続ける敏腕部長だ。一方、家に帰ると、反抗期真っただ中の15歳を筆頭に、3人の子どもの父親でもある。  達哉のトレードマークは、「昭和のおやじ」を彷彿させるような“迷?台詞(ぜりふ)”の数々といえよう。  家で、言うことを聞かない子どもを叱ったとき、その子どもが「だってー!」 とわがままを言えば、  「だってもあさってもなーい!」  と一括するのだ。  達哉のふるまいは、職場内でも同じである。  自身の示した方向性や方針に疑問を感じた部下が、「しかしぃ…」 と異論を唱えようものなら、  「しかしもかかしもなーい!」  と吐き捨てる。  そして、飛ぶ鳥を落とす勢いで、次々を成果を出していた新進気鋭の若手社員がミスを犯したときには、  「ちょっとばかり結果が出ているからといって、いい気になっているからだ、いいだ!」  と突き放すのだ。  昨今のご時世からすれば、“パワハラ”を訴えられてもおかしくない対応だが、それよりもなによりも、“第7世代”ともいわれる若者には、言ってる言葉の意味が通じない。  「“おくすり”って、風邪を引いたときとかに、お医者さんや薬局でもらうものじゃないの?」  過ちを反省するどころか、「…」と、ただ不思議そうに上司の顔を見つめるだけである。
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