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☆2源五郎
出所したところで、もうチームには戻れない。身寄りもない。やりたいこともない。だが、せめて遺族にお金を送りたい。
家賃が安い訳あり物件とのことで勧められた一軒家。おかげで住むには困らなかったが、食うには困った。建設現場などで働いてたが、経歴がバレるたびにクビになる。
面接に行ったが、落ちる。そうだろう、と思う。
短期の仕事などで食い繋ぐのがやっとだった。
確かに時々、見えない人間がやってくる。
鍵を開けて、勝手に入る。知らない靴が現れ、廊下を歩く音がする。たまにぶつかる。
壁を殴って驚かせると、大体の気配は逃げて、靴も消える。たまに俺の靴まで持っていくのが厄介だ。
だが、今回の奴は違った。壁を叩いても鍋を投げても、逃げなかった。
ちゃぶ台の履歴書が消えた。やっと間違えずに書けたのに。幽霊に怒鳴ったが戻ってこない。
と、別の履歴書が現れた。幽霊の世界では、パソコンで履歴書を作るらしい。
『鏑矢敬介』
心臓が跳ねた。オールバックの髪に銀の瞳。
俺が殺した奴の顔。
リーダーに言われたから、そうした。名前も、殺す理由も知らなかった。
ためらったせいで、苦しませた。
看取ってから、初めてリーダーに逆らって、自首した。
ちゃぶ台に、もう一枚なにか紙が現れた。
「オレここに住みたい、よろしく!」
これは、罰だろうか。
※※※
幽霊と暮らし始めて、色々わかったことがある。
電話で話せること(奴が、間違って備え付けの黒電話に電話したのを俺が取ったら繋がった)にも驚いたが、一番驚いたのは雨の日だ。
姿が見えて、互いに腰を抜かした。
「……じい…源五郎さん?」
「…オメェ…」
理屈はわからない。だが、雨が降る間だけ幽霊が見える。雨が止むと、姿が消えた。
アイツは、俺の顔を覚えていなかった。
幽霊は、元気そうだが痩せていた。電話で聞くと、詐欺にあってカツカツらしい。向こうでも金が必要らしかった。
詐欺。あのチームの収入源のひとつ。
朝は俺の方が早い。俺もカツカツだが、奴の分の飯も作ることにした。飯に汁物と浅漬けの質素なものだが、ちゃぶ台に並べると、器が勢いよく空になっていく。
幽霊は飯代を置いたが、見えないフリをした。
すると、時々土産を買ってくるようになった。ケーキだの大福だの、女子供の食いそうなものが好きらしい。
雨の日、シャインマスカット大福だかいうものを買って来た。嬉しそうな顔をして渡してくる。
俺がかぶりついた途端に雨は止み、ひとりになった。
奴がいないと、味がわからなかった。
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