1人が本棚に入れています
本棚に追加
☆5敬介
何か、おかしい。
幽霊とはいえ、こんな夜に来たのは初めてだ。しかも、源五郎さんに電話が来てすぐだ。源五郎さんの客だろう。
戸が開いたが誰もいない。足音もしない。源五郎さんのサンダルも消えてる。戸口で立ち話か。
立て続けに何かを叩くような音。ラップ音? 聞いたことはないが、違う気がする。
何か、おかしな客が来ている。
フライパンを持って玄関に向かう。幽霊相手に効くかは分からないが。
布団を叩くような音がした。
框の辺りにポタポタと水滴が落ちる。あの辺に誰かいる。
近寄ると、ゴツ、という音と共に幽霊が追突してきて、オレはひっくり返った。
「え? 何?」
見えないが、人の感触がある。ゴツい…鼻か? 源五郎さんの鷲鼻か? 触った手に血がついた。
ズン、ズン、と上から衝撃が来る。幽霊ごと踏んでる奴がいる? なんてことすんだ。
間違いない、源五郎さんが襲われてる。でも敵も味方も見えない。
とりあえず源五郎さんの上でフライパンを振りまわしたら、何かに当たって、いい音がした。フライパンは幽霊に効く。ざまあみろ!
だが振ってる隙に、源五郎さんを取られた。くそ!
ドカだのバキだのドスだの、不穏な音が連続して、壁や床に血が飛ぶ。ヤバい。でも下手に攻撃すると源五郎さんに当たる。
壁際ギリギリを移動して、横(たぶん)から手で探る。
何か掴んだ。髪だ、長い髪。こいつだ!
思いきり引っ張って、髪の元へフライパンを振りあげると、足元にドサッ、と重いものを落とされ、空振りした。足音が遠ざかる。
たぶん、逃げられた。
玄関には、血とゲロが散らばっていた。足元を探り、震える背中(たぶん)をさすった。幽霊が怪我した時は、どうすればいいんだろう。救急車も呼べやしない。
とりあえず腕(たぶん)をとって部屋まで運び、布団に寝かせる。布団も消えてしまい困ったが、探りながら顔(たぶん)を拭いた。幽霊に変な話だが、息はしてる。
『してほしいこと書いて!』とメモとペンを置いたが、メモの文字は増えない。書けないのか書かないのか、どっちだ。黒電話はコードが短かくて動かせない。固定電話というだけあるな!
引っ張って抜けた金髪は、寺か神社でガッツリお祓いしてもらおう。もう来んな。
不安なまま、玄関を掃除した。
こんな時に限って、雨は降らない。
最初のコメントを投稿しよう!