☆5敬介

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☆5敬介

 何か、おかしい。  幽霊とはいえ、こんな夜に来たのは初めてだ。しかも、源五郎さんに電話が来てすぐだ。源五郎さんの客だろう。  戸が開いたが誰もいない。足音もしない。源五郎さんのサンダルも消えてる。戸口で立ち話か。  立て続けに何かを叩くような音。ラップ音? 聞いたことはないが、違う気がする。  何か、おかしな客が来ている。  フライパンを持って玄関に向かう。幽霊相手に効くかは分からないが。  布団を叩くような音がした。  框の辺りにポタポタと水滴が落ちる。あの辺に誰かいる。  近寄ると、ゴツ、という音と共に幽霊が追突してきて、オレはひっくり返った。 「え? 何?」  見えないが、人の感触がある。ゴツい…鼻か? 源五郎さんの鷲鼻か? 触った手に血がついた。  ズン、ズン、と上から衝撃が来る。幽霊ごと踏んでる奴がいる? なんてことすんだ。  間違いない、源五郎さんが襲われてる。でも敵も味方も見えない。  とりあえず源五郎さんの上でフライパンを振りまわしたら、何かに当たって、いい音がした。フライパンは幽霊に効く。ざまあみろ!  だが振ってる隙に、源五郎さんを取られた。くそ!  ドカだのバキだのドスだの、不穏な音が連続して、壁や床に血が飛ぶ。ヤバい。でも下手に攻撃すると源五郎さんに当たる。  壁際ギリギリを移動して、横(たぶん)から手で探る。  何か掴んだ。髪だ、長い髪。こいつだ!  思いきり引っ張って、髪の元へフライパンを振りあげると、足元にドサッ、と重いものを落とされ、空振りした。足音が遠ざかる。  たぶん、逃げられた。  玄関には、血とゲロが散らばっていた。足元を探り、震える背中(たぶん)をさすった。幽霊が怪我した時は、どうすればいいんだろう。救急車も呼べやしない。  とりあえず腕(たぶん)をとって部屋まで運び、布団に寝かせる。布団も消えてしまい困ったが、探りながら顔(たぶん)を拭いた。幽霊に変な話だが、息はしてる。 『してほしいこと書いて!』とメモとペンを置いたが、メモの文字は増えない。書けないのか書かないのか、どっちだ。黒電話はコードが短かくて動かせない。固定電話というだけあるな!  引っ張って抜けた金髪は、寺か神社でガッツリお祓いしてもらおう。もう来んな。  不安なまま、玄関を掃除した。  こんな時に限って、雨は降らない。
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