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☆9敬介
多々良さんは喋ってたが、頭に入らなかった。
別世界? あれか、映画で見た並行世界とかマルチバースとかいう? 源五郎さんは多々良さんのやり口を言えた。あの人も詐欺グループの一味なのか? つか、別世界のオレもどっかにいる…?
急に多々良さんが黙った。
「妙なのが来たようですね」
玄関の戸を薄く開けると、長い金髪の多々良さんが、ナイフを振り回し、転がった源五郎ズを踏みつけようとしていた。妙どころではない。
ん、長い金髪…?
「アレもしかして別世界の私ですか。おおコワ」
「アイツたぶん、昨日源五郎さんをボコった奴…」
「じゃあこの中で最強ってことですね」
ゴッ、ゴッ、と、嫌な音がした。
源五郎さんは頭を蹴られて、ゲンくんは門の柱に叩きつけられて、それぞれ倒れた。なんてことすんだ。
「やっぱ刃物持つかなあ…鏑矢さん」
多々良さんは、鞄からトンファーを出した。
「警察と救急に電話を」
電話しながら救急箱を探してたら、ドカンとすごい音がして、見たら裏口が燃えてた。嘘だろ?
ちょうど119にかけてたので、消防車を追加した。
「おい火事だ、喧嘩してる場合じゃ…!」
金髪の悪魔は、多々良さんを放り投げてオレを凝視した。
「なんでキミ、生きてるの?」
「え」
オレに向けられたナイフを、源五郎さんが体で止めた。
源五郎さん⁈
「源…ずっと僕を騙してたの?」
「俺ぁ…本当に、殺した。けどコイツは別の…俺らがチンケな詐欺師と、その用心棒な世界の、コイツなんだ…だから生きてる…」
チンケな詐欺師はボロボロのなりで、用心棒の頭を止血していた。胸の怪我も止血出来るだろうか。同じ多々良なら、金取られても向こうの方がマシだと思った。
「コイツ、ほんと、いい奴なんだ…せめて、守り…たかっ……」
「源五郎さん!」
「あげないよ」
金髪多々良に顔を蹴られてひっくり返った。ホントこいつ…!
「源は、僕のものだ」
二人が消えた。
雨が止んでいた。
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