☆1敬介

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☆1敬介

「うわー、雨降ってきたよ」  コンビニでそんな声を聞こうものなら、普通はビニール傘をレジに持っていく所だが。 「今日は、フルーツ大福してみっか」  仕事上がりに弁当と季節の大福を二つ買い、雨の中を走って帰る。  平屋建ての一軒家。 「たっだいまー‼︎ 源五郎さん、タオルちょーだい!」  大声で言うと、家の奥からもそりと動く気配がある。よし!  若白髪のいかつい男が出てきて、オレにタオルをよこしてくれた。 「風邪引くぞ馬鹿」 「源五郎さんもう晩飯食ったの」 「明日早ぇんだ。もう少し読んだら寝る」  居間のテーブルには、骨董級な黒電話の横に、麦茶と出し殻の煮干し、読み古した文庫本。麦茶と煮干しをチビチビやりながら読書するのが、源五郎さんの夜のルーティンだ。 「じゃ寝る前にコレどうぞ」 「ありがとうよ…って、なんだこりゃ」 「シャインマスカット大福だ! 美味いんだぜ!」 「……へえ」  源五郎さんは、よくわからん、という顔で包みを開けて大福を頬張った。  源五郎さんが消えた。 「あっ!」  外を見る。雨が止んでいた。 ※※※  遠縁の親戚という奴から、親の急病でお金がいると聞き、貸したら逃げられた。詐欺だったらしい。身ぐるみ剥がされなかっただけありがたいが、貯金も崩してしまった。コンビニバイト暮らしで流石に厳しい。  安い物件を探してたら、アホほど安い一軒家を紹介された。家具備え付けのキレイな家だが幽霊屋敷だという。見学に行くと、なるほど壁を叩く音がしたり、棚がガタガタいったり、鍋が飛んできたりする。マジのやつじゃん。  だがこっちも、今後の生活がかかってる。姿の見えない奴に負けてられるか。  居間に、履歴書が置いてあった。自己紹介とは見上げた幽霊だ。  若いのに髪が真っ白だ。鷲鼻のいかつい顔でメンチ切ってる写真に苦笑した。バイトの面接なら落ちるぞ。下手くそな文字を読む。 『塔屋源五郎』  母方のじいちゃんと同じ名前だ。中卒なのも同じだ。  親は嫌ってたが、オレは結構好きだった。無口で何考えてるかわからなかったけど、よくオレのおしゃべりを嫌な顔せずに聞いてくれた。  だから、親と喧嘩別れして誰にも気づかれず独りこの世をさったと聞いた時は、悲しかった。  履歴書に書かれた年齢はオレより上だ。じいちゃん、若い頃はこんな顔だったんだろうか。  履歴書なら、副業探し中でオレも持ってる。  テーブルに置くと、履歴書が消えた。
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