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1. 幼馴染と親友
お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
同時に、スカートのポケットでスマートフォンが震えた。将人からだ。
――どこ行ってんだ? 授業始まるぞ。一ノ瀬が心配してる。
送られてきたメッセージに苛立って、私は返事をせずに画面を閉じた。
「何よ、『一ノ瀬』『一ノ瀬』って。そもそも私がどこに居ようが、将人に関係ないじゃん」
教室に戻る気になんてなれない。旧校舎の屋上、コンクリートに足を投げ出して、ぼんやりと空を眺めた。
将人は隣りの家に住む、幼稚園からの幼馴染。小さい頃は二つの家族でよくピクニックに出かけたし、彼とはいつも日が暮れるまで遊んだ。
明るくて誰にも優しい性格の将人は、いつだって人の輪の中心にいた。
小学生になると、私以外の友達と遊ぶ姿を見ることも多くなって、密かにやきもちを妬いていたっけ。そんなことをふと思い出す。
中学生になった将人は野球部に入って、練習に打ち込むようになって。
今までずっと一緒に帰っていたのにそうじゃなくなるのが嫌で、私は野球部のマネージャーになった。いつも彼の真剣な横顔を目で追いかけていた。
「お前ら、今日もふたりで帰るの?」
「相変わらず仲良いねえ〜」
部活仲間にからかわれるのも、毎度のことだった。
「ばーか。家が隣りだって言ってんだろ? 咲綾、帰ろうぜ」
そう言って振り返る時の、眩しい笑顔と優しい声が心地良かった。「帰ろう」という言葉は、いつも私だけのものだった。
それなのに。
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