プロローグ

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プロローグ

 その人は、旧校舎の屋上へと続く階段にいた。 「咲綾(さあや)」  屋上まであと一段のところだった。名前を呼ばれて振り返ると、通り過ぎたばかりの踊り場に少女が立っている。この高校の制服を着ているけれど、見覚えのない美少女だ。 「……え?」  ひとりになりたくて思わず教室を飛び出してきたのに、まさかここに自分以外の人がいたなんて。いや、そもそもこの人はなぜ私の名前を知っているのか。 「この眼鏡、あなたにあげる」  謎の美少女は掌にあるものを見せ、不思議な微笑みを浮かべている。  それは、鮮やかな色を放つ赤いフレームだった。 「いや、私、視力良いんで大丈夫です。というか、私たちどこかで会った……?」  戸惑う私を気にする様子もなく、彼女は穏やかな口調で話を続ける。  「この眼鏡は、運命の人へと繋がる赤い糸が見えるの。もちろん自分だけじゃなく、周りの人の糸も」  この人は何を言ってるの。そんなもの、あるわけないでしょ。  そう思いながらも、なぜか彼女の話に惹かれる自分がいた。 「その眼鏡をかければ、運命の人がわかるの?」 「ええ」 「いくら?」 「お金はいらない。あなたの役に立つのなら」  ミステリアスな空気を(まと)う彼女をまじまじと見つめる。どう考えても、この美少女……怪し過ぎる。 「なんで私に?」 「きっと、あなたに必要なものだから」  気がつくと少女の姿はどこにもなく、手の中には赤い眼鏡が残されていた。
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