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あの留学生と親しくなりたい。その一心で、私はESSサークルに入って英会話を勉強してきた。肝心の彼にはなかなか会えなかったが、一週間前、ついに遭遇したのだ。
一人でいたところに突撃して、心臓が飛び出そうになりながら、日本語と英語を交ぜて春のお礼をした。相変わらずかっこいい、幸せすぎる。ところが、留学生は私と会ったことを覚えていなかった。その上、待ち合わせをしていた別の留学生――すごく美人――が来ると、知らない言語で早口におしゃべりしながら、二人でどこかへ行ってしまった。
私がESSに入った動機は、学科の友達なら割と知っていた。当然、私の失恋も友人の間ですぐに広まった。黒田も誰かから聞いて、それでこんなことを?
運命にまつわる話は続く。彼の実際のところは分からない。だけど、聞いている内に、「運命の相手だと思った留学生に失恋した」と落ち込んでいたことがおかしくなってきた。何だか馬鹿みたいだ。
「――要するに、運命の人なんていないだろ、ってこと」
うん、と私は大人しく相づちを打った。
「だから、無難に俺にしとけば?」
「え?」
今度は何、と怪訝に思いかけて、固まった。
黒田がこちらを向く。マッシュウルフの髪が様になる、二重がきれいな目。一見普段通りの余裕の表情だったが、眉の辺りが何となく力んでいた。
今風のオシャレ男子で彼女がいそうだと思っていたのに。入学してから半年ちょっと、何回も話してきて全然そんな素振りはなかったのに!
「ええ!?」
「どう、山本さん?」
留学生とは違って、運命的な出会いなんてしていない。でも確かに今、失恋したばかりの私に新しい恋が落ちてきたのが分かった。
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