1人が本棚に入れています
本棚に追加
「運命の相手ってよく言うけど、アレってあり得なくない?」
突然何なのこの人、と私は隣にいる黒田を振り返った。一人分くらい間を空けて同じベンチに腰かけている彼が、ペットボトルのミルクティーを飲む。ウルフカット寄りのマッシュヘアの印象もあって、実に平然としているように見えた。
前置きなんてなかったと思う。大学の三限の講義の後「お疲れ、山本さん」「会うの久々?」と声をかけられて、一緒に自販機で飲み物を買うことになった。それから木陰のベンチに座って、すぐこれだ。
同じ学科で、講義の時にペアで発表する機会なんかもあったが、黒田がこんな尖ったキャラだとは思わなかった。私のミディアムヘアを涼しい秋風が揺らした。
「食パンくわえて十字路でぶつかるのとか、絶対ないわ。笑っちゃうの俺だけ?」
「……それはラブコメの世界の話だけど、でも、似たようなことなら実際にあるんじゃないかな……」
聞き流すつもりだったのに、つい、そう答えていた。私は胸の中の寂しさをごまかすように抹茶ラテを一口飲んだ。
今年の春。大学に入ったばかりで、慣れないキャンパス内をソワソワと歩いていた時、一人の留学生に出会った。私がスマホを落としたのに気づいて追いかけてくれた彼。照れ臭そうに微笑んでくれたアジア系の彼。その瞬間、自分が恋に落ちたのが分かった。
けれど――とにかく、自分にだってそんな経験があるのだから、運命の出会いというのはきっと存在する。
最初のコメントを投稿しよう!