4人が本棚に入れています
本棚に追加
言いたいことは山のようにあるが、上から頭ごなしに怒鳴りつけてくる声に、俺の逆らう気持ちが負けてしまった。
仕方無く適当に手近で泳ぎ回っている成魚を選び、綱をつけた大きな網を上手く腹の下へ潜らせ、一気に綱を引いて一匹掬い揚げた。
「ひゃっひゃっひゃっ!やっぱりおまえが若いモンの中で一番うめえな」
下衆びた笑い声のせいで、俺はさらに胸くそ悪い思いだけがこみ上げる。
金色の尾が激しく動き、水飛沫を辺りにはじきとばした。
ハッとして網を見ると、捕まえた金魚と目が合う。
もう慣れた作業だけれど、『助けて』と口をパクパク動かし網から腕を伸ばす金魚に『ごめん…ごめんよ』と毎回何度も謝り、大きなたらい桶へと移した。
他の金魚は行き先がわかっているため、運ばれていく桶の金魚の悲鳴を聞きながら、悲しみの歌を歌い見送る。
たらい桶に入れられた金魚がどんな風に食べられるのか俺たちには知らされておらず、さっぱりわからないことが、まだ救いになってる気がする。
しかし、この時間が一番胸が痛く苦しくて、こんな思いをするのなら、まだ金魚たちから怒りをひたすらぶつけられ、罵られた方がどれほど楽か。
せめて、連れて行かれた金魚の苦しみが、少ないことを願うことしかできない。
最初のコメントを投稿しよう!