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ムラサキは最後、おしゃれなイタリアンのお店に案内してくれた。少し暗めの店内は大人っぽく、周りには年上のカップルも多い。
頼んだカルボナーラは、濃厚で想像以上の絶品だった。
「石井さん、運命の相手は一人って言ってたけど。私はそうは思ってないんだよね。赤い糸は二十本あるって説を聞いたことがあって、それを信じてる」
「そんな説あるの?」
「うん、ポッドキャストで聞いた。私もそれうまく噛み砕いて理解できてるわけではないけどさ」
ムラサキはジェノベーゼパスタをくるくる器用に巻きながら話し続ける。
「運命の人は一人だから絶対その人見極めなきゃって気張るよりも、複数いるって思ったほうが肩の力抜いて人と向き合えるのかなって。そもそも運命なんてないかもしれないし。石井さんも、先回りして決めつけるんじゃなくてとりあえず楽しんでみてもいいんじゃない?」
私は、やっぱり運命の人は一人って思いたい。だってそのほうがロマンチックだから。
それでも。
「確かに、もっと気楽に人のつながり求めてもいいのかもしれない。告白されて、ありきたりだけどまずは友達からとか、その人のいいところ自分から見つけに行くとか」
「うんうん」
楽しげに相槌を打たれて、嫌な気はしなかった。
「今日のデート楽しかった?」
「うん」
「素直。楽しかったなら、よかった」
運命の人といってもそれは必ずしも恋愛的な意味ではなく、自分にいい影響を与えてくれる人全般が運命の人かもしれない。
それならムラサキも私も運命の人ということになってしまうけれど、それを伝えるのは悔しいから、私だけの秘密にしておこう。
〈終〉
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