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スクリーンに映る女の子は制服姿で足先を海に浸けている。女の子が片足を上げると水しぶきが跳ねて、太陽の光でキラキラと光った。
浜辺では、男の子がまぶしそうに女の子を見つめている。
今日は、有名なアニメ映画の監督の最新作を観に来ていた。ファンタジー設定が混じった、現代の高校生もの。季節の設定は公開時期とリンクして夏真っ只中の8月。劇場内は満席で、家族連れやカップル、友達同士と様々な年代の人が集まっていた。
ヒロインの女の子のひたむきな姿につい涙ぐむ。視線だけで隣を伺うと、ムラサキは特に表情を変えず、しかし真剣な眼差しでスクリーンに集中していた。
ああ、このシチュエーションが好きな男の子であれば完璧だったのに。
もう隣は気にしないぞと自分に言い聞かせ、前に視線を固定する。
映画館を出ると、作品内と同じぐらい強く日差しが照っていた。
「うぅー」
ハンカチを握りしめて泣いている私にムラサキが呆れたように首を傾げる。
「石井さん、結構涙もろいね。ベタな展開弱い?」
「うるさい」
恥ずかしくなって、ずかずか早歩きで進む。
「で、カフェってこっち……」
方向を聞こうとした振り向きざまにシャッター音が響いた。
ムラサキはいつのまにかカメラを構えていた。コンパクトなデジタルカメラでなく、ちょっと機能が良さそうなものだ。
「ねえ。今目ぇ赤いし、しかも暑いから汗もかいちゃってるし」
「平気平気、後ろ姿だから」
ムラサキは満足げに撮れたものを確認すると、私に見せてきた。確かに、髪をゆるく巻いてワンピースを着た後ろ姿と青空と街路樹の画は様になっている。
「夏って景色が色鮮やかになるから写真撮るの楽しいんだよね。モデルも、後ろ姿でもばっちり映えてくれたし」
ムラサキは立ち止まると前の建物を指差した。都心らしからぬ、木のぬくもりが感じられる絵本に出てきそうなとこだ。看板があるから家ではないとわかる。
「あ、ここ来たかったカフェ。はい、どうぞ」
ドアを開けて私を先に通してくれる。
確かにこれはデートだなと思いつつ、そう思ってしまった自分に対して頬を膨らませる。
『ねえ、デートプラン組み立ててあげるから、私と一緒にデートしようよ』
制服のスカートと、さらさらの黒髪をなびかせて微笑むムラサキの姿を思い出してしまった。
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