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カフェで私はアイスティーとチーズケーキを、ムラサキはコーヒーフロートを注文した。
これはムラサキいわくデートらしい。しかし私たちは恋人同士ではないし、お互いがお互いに気に食わない点があるので友達同士とも言い難い。
ムラサキ――村崎彩花とは今年の春、高三で初めて同じクラスになった。ムラサキは特別際立つ美人ではないけれど清潔感のある身なりとかぴんと伸びた背筋とか周りにはないものを持っている。ただ私が気に食わないのはそこではなく、この女の恋愛観だ。
ムラサキは彼氏が途切れず、付き合っては別れを繰り返している。本人もそれを隠さないから、学校という狭い空間内では簡単に広まる。
人と簡単に付き合う、というのが私には理解できない。気に食わない。
私はたった一人の運命の人を信じている。
私も何かと噂になることが多く、ムラサキにとやかく言える立場ではない。
私は告白されることが多い。見た目がいいほうである自覚はあるし、自分がよりかわいく見える角度も話し方も会得している。
ただ私はムラサキと違い、告白されても全て断っている。
ムラサキと初めて真っ向から対峙したのは先月の放課後だった。
クラスメイトから校舎裏というベタな場所に呼び出された私は案の定告白され、私はルーティーンのようにお断りした。たまたまその場面を、ムラサキに見られてしまった。
「石井さん、岡田くんとよく話してたじゃん。そんな機械的にばっさり振っちゃって、罪悪感とかないの。せめてちょっと考えるとか」
「出席番号近いし確かに話すことは多いけど、付き合う気はないもん。自分の直感で信じられる相手……運命の相手じゃなきゃ、楽しくないでしょ」
「運命の相手、ねえ」
「運命の相手、私は信じてる。たった一人なんだから、慎重に選びたい」
ムラサキはふうんと目を細めた。
「ねえ、デートプラン組み立ててあげるから、私と一緒にデートしようよ」
上品に微笑んだムラサキの髪とスカートを風がなびかせる。
「はあ? 何言ってるの」
「運命じゃないと楽しくないーみたいなその考え方気に食わなくてさ。私とがっつりデートしてみて少しでも楽しかったら、その考え変えられるかなって。平気、私たまたま今フリーだから。レアだよ」
あんな奇怪なことを言っていた女と今こうして顔を突き合わせてお茶している。
ぶるりと体を震わせたことに気づいたのか、ムラサキが薄手のストールを取り出した。
「冷房寒い? これ肩かけたら」
「あ。うん」
反射的に答えてしまい、ぎくしゃくとストールを受け取り肩にかけた。
ストレートの髪を耳にかけ長い柄のスプーンでバニラアイスをすくうムラサキを見ながら、なぜこの女がモテるかを身をもって実感し始める。
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