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「やっと言ってくれた」
「へっ!? 気づいてたの?」
思いもよらない言葉に怜を見ると、呆れを隠さない表情でこちらを見ていた。
「当たり前でしょ。表情に出やすいんだもの。透子にも記憶があることは、初めて会った時に気づいてたわよ」
「じゃあなんで……」
「約束したでしょ。トールが私を見つけ出すから待っててって」
その言葉に前世で最後に交わした約束を思い出した。そうだ。確かに言った。来世では俺が必ず見つけ出してプロポーズするって。
「だから私は待ってたのに。何時まで経っても言ってこないから、待ちくたびれちゃってさ。保護したあの仔がトールに似てたから最終手段に出ることにしたの!」
怜が拗ねたように言うので「ごめん」と頭を下げるしかなかった。
これまで気づかれていないと思ってやってきたのに、全部筒抜けだったとは恥ずかしい。真っ赤になった顔を見せられなくて顔をあげられない。
「ねぇ、なんで見つけてすぐに言ってくれなかったの?」
「……だって女同士だったし、その、記憶と違いすぎて幻滅されるんじゃないかって」
私が今まで抱えていた不安を吐き出すと、怜が「えっ?」と不思議そうな声をあげた。思わぬ反応に私が顔をあげると、怜は一度大きく瞬きをしてから意地悪く笑った。そのままにじり寄ってくるので嫌な予感がして思わず体を反らす。
しかし怜は気にせず近寄り私の耳に顔を寄せた。耳に怜の吐息がかかり、体中の熱が集まる。
「今の私は男だから同性じゃないよ」
だから心臓の音に気を取られ、言葉への理解が遅れた。
「……お、とこ? ……怜が?」
「そう」
思わず怜の上から下まで見るが、いつものとろみのあるブラウスにロングスカート。どうみても女の格好だ。
「なんでそんな恰好してるのよ!」
「前世に近いほうが見つけやすいかなって。目的も果たしたし、もう止めるよ」
悪びれずにそういう怜に、今まで悩んでいたのは何だったのだろうと遠い目になってしまう。そういえば昔から突拍子もないことをする奴だったことを思い出した。無駄に行動力があって振り回されていたのに、記憶の中では清楚なお嬢様になっていた。記憶が美化されるというのは本当らしい。
そんな私の反応を気にすることなく怜は続けた。。
「たとえ同性だったとしても、私は透子を好きになったよ。こうやって出会えたのも運命なんだから、今度こそ絶対に二人で一緒に幸せになろう」
得意げに笑う怜に勝てたことなど前世でも一度もなかったが、それは現在進行形のようだ。
でも素直に認めるのは悔しいので、私は怜の腕を引っ張った。バランスを崩して飛び込んで来る怜を答えの代わりに抱きしめた。
そんな私達を祝福するようにトールがにゃあと鳴いた。
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