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便利な世の中になったものだ。
望んだ物はどんな物でも手に入る。働く必要さえない。家事は全て機械がやってくれる。人間は何もしなくても豊かな暮らしを約束された。夢の世界を手に入れた。まさに近代科学様々だ。
だが、何事にも弊害は付き物だ。
「ご主人様。お食事の時間です」
美しい女性が私の元に食事を届けに来た。ブロンドの髪を揺らし、青色の瞳をしている。きめの細かい肌の質感は人間そのものだ。
「ありがとう。下がっていなさい」
私が念じると、車椅子に搭載された脳波検出装置が思念を読み取り、音声が再生された。メイドロボは優雅な所作でお辞儀をし、部屋を出て行った。
車椅子からアームが伸び、メイドロボの運んで来たチルドパックを掴む。透明なチューブで私の臍と連結させた。チルドパックに満たされた緑色の液体がチューブを通って私の腹へ流れ込む。百五十余年の寿命を実現させた完全栄養食だ。
食事中の私を退屈させないよう、森林の立体ホログラムが作動した。遠い昔に枯渇した自然、絶滅した野鳥のさえずりに耳を傾けながら、人間の底知れぬ欲深さを呪った。
我々は本当にこの現実を望んだのだろうか。
チルドパックが空になった。と、見計らったようにメイドロボが部屋に入ってきた。
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