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もういい。もう止めてくれ。
私は念じた。音声となって車椅子のスピーカーから言葉が発せられた。
「もういい。止めてくれ」
メイドロボは静かに微笑み、首を振る。
「それはいけません。私たちAiは人間様を長生きさせて差し上げるようプログラムされています」
来るな。止めろ。
私は念じた。しかし音声になってくれない。Aiが無意味な思念と判断し、発声を拒否したのだ。
もういいんだ。声が出なくなって、自分じゃ指一本動かせないほど衰弱してまで生き長らえたくはない。
私は念じた。
機械に頼らなければ五感も機能しない。時が過ぎるのを待つだけの日々は辛いんだ。
私は念じた。
もう十分生きた。これ以上は――、これ以上は――。
発声は拒否された。
便利な世の中になったものだ。
今や治らない病気は無くなった。死人同然の身体でも生き長らえられる夢の薬まで開発された。
人間がいくら寿命が尽きる事を望んでも、Aiに施された「人間を死なせてはいけない」というプログラムが許してくれない。今後も平均寿命は延び続けるだろう。延々と「虚無」の時が続くのだ。
私は念じる。
もう嫌だ……。
「ご主人様」
メイドロボが微笑んだ。
「おくすりの時間です」
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