生まれたときから

2/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 町屋さんと並んで帰っていると、顔も知らない生徒の注目の的になることがある。  今日も今日とて、男女混合で帰っている集団グループにからまれた。ネクタイの色から一年生だとわかる。どこで町屋さんを知ったのだろうか。一度でもすれ違えば胸がむかついて忘れられないような、面識のない相手に向けるには好奇心が剥き出しで気持ち悪いくらいの笑顔をこちらに振り向かせている。中でも、少ない毛量をポニーテールにした、あばたのようなえくぼを持つ女子の姿は明日の朝までは覚えていそうだ。  彼らは町屋さんをしっかり見ながら、話しかけるのではなく、グループ内で騒ぎ始めた。  「あの人でしょ、ゴキブリが守護霊なの」  「マジで? きっしょ」  「ゴキブリが守護霊とかないわ。守護霊じゃなくて疫病神じゃん」  狭い道で広がってグダグダ歩く彼らを追い越すこともできず、私たちは歩く速度を落とす。彼らはまだ町屋さんを見ている。ふと、うち一人が前に向き直って目前に迫っていた電柱を辛うじて避ける。多分、守護霊が教えてくれたのだろう。電柱を避けたその男子は一度だけ振り向いて、それからは再び前を向いて歩き出した。釣られて他の生徒も飽きたように前を向いた。道は開かないままだ。  電柱にぶつかりかけた男子の守護霊は何だろうか。白玉を日光で無理やり炙ったような腕をやや浮かせる動作をしたのを私は見逃さなかった。多分、守護霊が彼の腕にからみつきでもしたのだろう。  前方の一年生たちはコンビニに入っていった。自然私たちの歩幅は回復する。  町屋さんが素早く口を動かした。  「あいつらのうち一人、ムカデが守護霊」  「強そう」  「頼もしいよね。本人はムカデさんから目を逸らしてたけど」  教室での話を思い出す。この学校には、いや日本中に、自身の守護霊を偽っている人が少なからずいる。ムカデの守護を持つその人も、きっとその一人なのだろう。  「母子手帳なり証明書なり見られれば、嘘もばれるだろうけどね」  「証明書……そういえば失くしてたんだった」  「それ大丈夫?」  町屋さんが特に心配でもない様子で聞いてくるのが少しおかしくて、私は笑う。均が私の肩に手を置く。重くない。  「私の場合はほとんど必要ないから。のんびり探して、見つからなかったら再発行してもらえばいいだけ。そういえば、この学校にもいるの? その……」  「要注意の守護霊? いるね」  「ふーん。大変そうだね」  同情するでもない態度でそう言うと、町屋さんは笑った。  町屋さんと別れるとき、彼女と均は手を合わせ、挨拶をした。手と手が鳴る音もしない。  私も町屋さんの守護霊と挨拶をした。が、私の場合はどこに彼女の守護霊がいるのか見えないので、教えてもらいながらたどたどしく指で撫でた。何の感触もしない。  町屋さんと別れた後、均は私の横に並んで歩いた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加