生まれたときから

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 「町屋さんは将来、霊視官目指すの?」  町屋さんは照れくさそうに頷いた。普段堂々としている彼女の動作が今日は控えめだ。  「私じゃ能力不足かもしれないけど」  「十分じゃない? こうして他人の守護霊と仲良くできるくらいなんだから」  私の膝の上で均が同調して首を縦に振る。全く重くない。  町屋さんは今、左肩にインコのインくんを、右肩にゴキブリのゴッちゃんを乗せているらしい。たまに彼女の指先が虚空を撫でる。  守護霊に対して臆することのない町屋さんが、自身の将来になると自信を失って恥ずかしがっている。  彼女は立派だと思う。 「生まれたての赤ちゃんに守護霊がつく瞬間に立ち会えるんでしょ? 何か、儀式みたい」  「だよね。私、まさにそれがしたくて霊視官になりたいの。その人の守護霊が決まって、それを記録に残すのね。その守護霊が強力すぎたら要注意守護霊として認定して、定期的にサポートやケアをしてあげるの、素敵じゃない?」  要注意守護霊。以前町屋さんはこの学校にも要注意の守護霊がいると言ってはいなかったか。だとすると力が強すぎてかえって守る対象に危害を加えてしまう守護霊が身近にいるということだ。それがどのように危険であるのか、私は知らない。  「は将来何がしたい?」  「んーとね、私は葬儀社で働きたくて」  「じゃあ、けっこう私と近い職じゃない?」  「そう?」  「そうでしょ。霊視官は守護霊がつく瞬間に居合わせて、葬儀社は守護霊が離れる瞬間を見送る。近くとも遠からずでしょ」  将来どうなってるか、報告だけでもしたいよね。そう締めくくり、私たちは教室を出た。  町屋さんと過ごす学校生活も、今日で終わる。  友人であることには変わりないが、親友というには離れた距離だったと思う。もしべたべたした関係であったなら、町屋さんは私に霊能力の話はしてくれなかったのではないかとなんとなく思う。  階段を降り、下駄箱で自身の上履きをリュックにしまい、昇降口を出る。駅までの道を並んで歩く。この日に限って道を阻む人はおらず、いつもより早く別れ道までついてしまう。  私は町屋さんの左肩に手を伸ばす。何も触れない。ゴッちゃんから私の手に向かってきてくれたと教えられる。インくんは嬉しいことに私の頭の上にとまっているらしい。  均と町屋さんが握手をする。二人は感触を共有することができるのだろうか。聞こうとしたとき、電車が到着した。  「じゃあね」  町屋さんは扉が閉まるまでそこにいてくれる。  私と均は彼女たちに手を振った。  電車が動き出してから車窓を見ると、町屋さんはすでに反対側のホームへと歩いていた。
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