生まれたときから

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 「少なくとも、この学年で五人は嘘をついてるね」  唇の端に人差し指と中指を当てるいつもの癖をして、町屋さんは言った。  揃えた二本の指を下ろし、右肘を軽く掻く。それからを撫でた。  私は教科書をリュックにしまい、チャックをしめるまでの動作をしながら彼女の話を聞いていた。教室の窓の外は白い空で、窓際の席をくすんだ光で照らしている程度の明るさだった。  私の隣には均がいて、隣の席の机に腰かけている。私以上に、町屋さんの話に共感しているようで、しきりに頷いている。  「このクラスにも?」  私の問いを、町屋さんは肯定する。それ以上は聞かないし、彼女も教えてこない。  知りたくなったら均ちゃんに聞けばいいしね、以前町屋さんが言っていた言葉を思い出す。均を横目で見るが、彼女も何も言うつもりはないらしい。  私と町屋さんは教室を出て、階段へ向かう。均がその後ろからついてくる。  町屋さんは誰がとは言わないまま、学年内の「嘘つき」について語る。  「嘘をついたときの守護霊たち、ちょっと可哀想。虫とか魚だったら感情はわからないから何とも言えないけど、猿とか猪とかの哺乳類だとけっこう察せるのね。しょげたり、すねたりしてさ」  二階から一階へ降りる。埃のたまった段を一段ずつ体重をかけて降りていく。頭上で均が付かず離れずの距離で浮遊する。  下駄箱に到着する前に、私は軽く聞いてみる。  「言ってる本人は、自分の守護霊がどんな反応しているかとか気にしないわけ?」  均を見上げると、彼女はぼんやりしているふうで、私たちの会話を確かに聞いている。上を見たまま歩いている私に足元を見るよう注意し、目線を落とすと昇降口に敷かれた簀の子に足を引っかける直前だった。  均に両手を合わせ、靴を履き替えているあいだに、町屋さんが自分の下駄箱から靴を履き替えてこっちにやってくる。そして答えをくれる。  「気にしてるよ。でも嘘をつかないわけにはいかない」  なぜならランクがあるから。  心の中で呟く。  均が足を浮かせながら、私の首に後ろから腕をからめてくる。私はその腕に手を添え、優しくにぎる。何の感触もしない彼女の腕に、それでも温もりを探してしまう。
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