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一本の木があった
その木にはいくつもの実がなった
持ち主はその中で特に大きく育った実に目をつけた
薬を使って鳥や虫に食べられないようにして
色づくころには袋をかけて風があたらないように大切に育てた
そのほかの実は何もしないで放っておいた
季節が過ぎ、大切な実は収穫されていった
町に売りにいくために大きなかごにしばらく保管された
木に残っていた実は完熟し、自然に木から落ちていった
かごの実は車に揺られて町についたが
いくつかは傷んで腐ってしまった
「これはもう食べられないな。」
持ち主は腐ってしまった実を土に埋めて自然に返した
木から落ちた実はよく熟して芳香を放っていたため
遠くからやってきた渡り鳥の餌となった
渡り鳥はその実を食したあと、とても元気になって
力強く羽ばたいて旅立っていった
もとは同じ木に育った実であったが
腐敗と発酵にわかれていった
毒と薬である
おなじものであっても、場合によっては
まるで正反対のものになってしまうことを忘れてはいないだろうか
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