火曜日のキッシュ

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 食べて、美味しい、と思った瞬間、美晴の『運命』が回りだしてしまう気がした。      あたしの人生の主役は、あたしなんだ。      フォークの先端に豚肉のテリーヌを突き刺して、美晴は頬張る。  やっぱり、美味しい。   (……美味しいな)  参考書をくれた時の、蒼佑の横顔を思い出す。  もしもこれが運命で、このテリーヌが別れのひとくちなのだとしたら、悪くないと美晴は思った。  だから。  だからこそ、完璧に、予想外だったのだ。 「これ、サービスです」  突然現れた蒼佑の一言とともに、キッシュが目の前に置かれたのは。食べかけテリーヌつきの青い皿を、下げる間もない。  キッシュは真琴にあげたものと、見た目が違った。ほうれん草の除去手術を受けたうえに、なんだかこんがり炙られている。  なんだこのサービス。    「は?」    呆然と置いた主を見上げた美晴の前で、蒼佑は、笑っていなかった。  泣きそうだった。   「……いそ、がしくて、たいみんぐ、みうしなっちゃって、あの、おれ…返事、しなかった…ごめん……あの……」    美晴は思うのだ。  そうか、運命はこちらだったか。  
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