第15話

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第15話

「先に寝ていても構わんぞ」 「忍さんは寝ないんですか? ってゆうか、そんな飲み方して躰に悪いですよ?」 「酔わんと知っていても気になるのか?」 「何を言ってるんですか、当たり前でしょう!」  背に抱きついてきた温かな躰に霧島は息をつく。京哉は首を横に振った。 「すみません、嘘つきました。気になってるのは逢坂さんです」 「気にしすぎだ。私は絶対に過去に転んだりしない。安心していろ」  自分ではそう言ったものの、女性がだめでない京哉のことなら過去だけでなく、今でも心配で堪らない霧島である。出会って最初の誕生日にペアリングを嵌めさせ、虫がつかないよう可能な限り傍で見守ってきた。  それでも男の自分より女性に惹かれるのではないかと戦々恐々としているのだ。そういった思いとは少々違うのかも知れないが、今回行動を共にするのは確実に霧島と過去を共有し、一度は惹かれ合った人物なのだ。気にならない方がおかしいだろう。  振り向くとさらりとした長めの髪を指で梳いてやる。 「私も、もう寝る。お前は先に――」 「嫌です。一緒に寝て下さい」  頷くとグラスを干して洗浄機に入れ京哉を横抱きに抱き上げた。寝室につれて行ってダブルベッドに着地させる。お揃いのパジャマを着た京哉は黒に白い肌が映え、鮮やかに唇だけが赤くて堪らなく綺麗だった。  霧島は隣に腰を下ろすと細く華奢な躰を抱き締めてそっとキスを奪う。ソフトキスのつもりが深く求められた。  歯列を割って入り込んできた京哉の舌は巧みに蠢いて霧島の口内をねぶり回した。幾度もねだられて霧島は唾液を送り込む。京哉は喉を鳴らして嚥下した。  苦しくなる寸前で許されたが離れる際には、舌先から血が滲みそうなくらい噛まれる。  二十センチくらいの超至近距離で潤んだ黒い瞳を覗き込んだ。 「そんなに心配なのか?」 「それは……信じています、でも」 「私はお前だけだ。一生お前だけだから今回だけは我慢してくれ」 「ずるいです忍さんは。そんな風に言われたら何も言えなくなるじゃないですか」 「すまん。だが誓いは忘れないからな。一生、どんなものでも一緒に見てゆくと」  謝るより言わせてやる方が優しさだと思ったが、霧島も言わずにはいられなかった。 「忍さん……欲しいよ」 「お前のものだ、好きなだけやる」  上衣のボタンをふたつ外して前をはだけた霧島は、ベッドのヘッドボードの棚からトワレのガラス瓶を手にして胸に一吹きする。ペンハリガンのブレナムブーケだ。  内勤の機捜隊長だが大事件が起こると飛び出して行く。故に現場に匂いを残せないので普段はつけないが、行為の時だけは京哉も大好きなこのトワレを香らせているのだ。
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