わたしのかみのこ

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 階段の上から、生徒たちの馬鹿笑いが聞こえてくる。  わたしは掃除用具が入ったカートを押すのを止めて、頭上を見上げた。  笑っていたのは、知花という二年の男子生徒を中心としたグループだった。彼らは、超金持ちの子女が通うことで有名なこの私立立花学園高校の中でも、群を抜く金持ちの親を持つらしく、いわゆるスクールカーストの頂点を占めていた。  二か月前に人材派遣会社からこの学校に清掃員として派遣されたわたしは、広大な敷地に並び立つ豪華な校舎と、妙にキラキラした生徒たちにかなり驚かされた。二十年近く生きてきて、初めて踏み入れた世界だった。 「ほら、キスしろよ」 「キス! キス!」  知花たちは、線の細い男子生徒と女子生徒を囲んで、はやし立てている。   どうも二人を無理やりキスさせようとしているらしい。金持ちの子息だからといって、品がいいわけではないのだ。呆れてしまうが、清掃員のわたしには関係のないことだ。彼らの餌食になっている生徒は可哀そうだが、ちょっと早めに人生経験を積むことになったと思って……。 「ぼくは無理やりそういうことをするべきではないと思う」
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