わたしのかみのこ

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 無表情で淡々とそう言う少年は、先生に叩かれたわたしを幼心に心配して言っているようにも思えず、わたしは無性に腹が立った。  そして、幼い子どもに勉強を教えてあげると言われた恥ずかしさもあって、思いつく限りの言葉で神野康少年を馬鹿にして、小突き回した。彼は泣いて逃げて行った。  あとで、彼の名前と『かみのこ』というあだ名、そして小学校始まって以来の天才だということを知った。彼はわたしを馬鹿にしたわけではなく、本当に親切で勉強を教えると言ってくれたのだ。しばらくわたしは大人げなく彼を泣かせたことを後悔することになった。  小学校を卒業してからは彼の姿を見ていないし、わたしは中学校を卒業してすぐに、家出同然で地元を飛び出してしていたため、彼のことはすっかり忘れていた。  まさか、ここで再会するとは。特に興味がなくて知らなかったが、わざわざ隣県のこの高校に入学するくらいだから、彼は金持ちのお坊ちゃんだったのだろう。  二か月前にここに清掃に来るようになって、しばらくは彼に気付かなかった。数週間前に、たまたま彼が『かみのこ』と呼ばれているのを聞き、名前を見て思い出したのだ。
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