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「わたしはそんな暇ないの。もういい、窓を割って出ていく。あんたは置いていくからね。男なんだから、パンツのまま校内を歩いても問題ないでしょ。自分でどうにかしてよね」
彼は黙って、微かにだが、笑みを浮かべたように見えた。
「なに?」
「おねえさんは僕を見捨てられないでしょ」
「見捨てるに決まってるでしょ」
「おねえさん、美術室の掃除するとき、キャンバスに勝手に描き足してるよね」
まずい、見られていた? 確かに、わたしは、生徒が製作中の絵に、了承を得ずに描き足している。
「なにそれ、脅し? 別にどうでもいいけど」
「違うよ、おねえさんは優しいということを言いたかったんだよ。だって、なかなか進んでいない絵を選んで、足してるでしょ。描き続けられるように助けてるんでしょ」
「だから?」
「だから、優しいおねえさんのことは信じてるってこと」
「わたしのこと知らないくせに」
そもそも本当に信じられる人なんて、この世にいるわけない。生まれてからこれまで、わたしには信じられる人が誰もいない。
「知ってるよ。あのときだって、結局謝りに来てくれたでしょ」
「なんのこと?」
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