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 笹倉(ささくら)あぐりとの交際は、ありがちな形で始まった。SNSの片隅でひっそり、打算的にできた縁だった。  結婚前、地方の本家の出身で姉妹だけと知らされたときは跡継ぎ要員なのかと警戒した。  けれど妻は、末娘だから婿入りは必要ないし、実家は遠方で普段の生活に何も言ってこない、自分は家に縛られていないのだと言う。  実際、干渉らしい干渉はなかった。  籍を入れただけで挙式も新婚旅行も省略した靖たちだったが、上っ面の夫婦であることを見破るどころか、探りにさえこない。  娘の幸せに興味がないようだった。  女親がいないからか。それとも土地に根付いた一族というのは、家を出てしまえば無関心に翻るのだろうか。偏見に近い推測が靖の頭に浮かんだ。  里帰り出産すると聞き、意外に思ったくらいだ。娘への情が薄くても孫となれば話は違うのだろうか。  もっとも契約上の夫でしかない靖に対する、妻の信頼のなさの裏返しと考えれば納得できた。  妻の家が近づいてきた。南西の盆地だからと酷暑を想定してきたが、一昔前の夏を彷彿とさせる厳しすぎない暑さが有難い誤算だった。  確かこの辺りだが、前は車で直行だったので自信がない。最近は繋がるはずのスマホも圏外だ。  街灯もない夕刻の畑沿いを子供たちが走り回っている。少子化でも田舎はにぎやかだ。  しかし声が聞こえる距離なのに、なぜか空気の分厚い膜を挟んだような遠さを感じる。  大勢いる中で、一人の女児の後ろ姿に吸い寄せられるように焦点が合った。年齢が推測できない大人びた、でも幼い後ろ姿。
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