1人が本棚に入れています
本棚に追加
そうして、どれぐらいの月日が経っただろうか。
俺は再就職を果たして、今ではトラックドライバーをやっている。
一方、A氏は人類を救った英雄として世界中の尊敬を集めている。
まさしく俺なんかとは住んでいる世界が違う御方だ。
だが、「4月1日」のあの夜、A氏の命を救ったのは間違いなく俺だ。
今にして思えば、俺が「4月1日」を無事に越えられるかどうかは、
A氏……否、あのおっさんに声を掛けるかどうかにかかっていたんだろう。
声を掛けなかった場合、俺とあのおっさんは共にトラックに轢かれて死んでいた。
声を掛けたことで、俺もおっさんも生き延びて……そして、人類は救われた。
俺は今、その世界に居る。
俺自身は名も無い小市民に過ぎないが、ひそかに人類を救った英雄でもあるのだ。
その誇りを持って、俺は今日も着実に生きている。
俺だけじゃない。
普通の人が普通に生活をする……ただそれだけのことが、
周り回って世界を救っているのだと、俺はそう思っている。
例えば……そう、俺が今、このトラックの中でくしゃみをする──ただそれだけのことで、世界は今日も救われるのだ。
(終)
最初のコメントを投稿しよう!