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2回目までなら偶然、3回続けば必然……そんな言葉を聞いたことがある。
ならば、思いがけずに4回も同じ人と出くわしたなら、それは何だろう。
──運命、とでもいうのだろうか。
その相手が恋に落ちてしまいそうな美しい女性だったなら、
俺もそう思っただろう。
だが、残念ながら俺の視線の先に居るのは黒縁メガネを掛けた小太りのおっさんだ。
今日、このおっさんを見かけるのは4回目になる。
1回目は役所のロビーだった。
2回目は行きつけの喫茶店だった。
3回目は通りすがりの道だった。
そして、この高級ステーキの店で4回目の再会を果たした。
否、再会という言葉は相応しくないのかもしれない。
俺とそのおっさんは知り合いでも何でもないのだ。
多分、相手を意識しているのは俺だけで、
おっさんの方は俺のことなんて気にもしていないだろう。
それにしても、同じ店で食事をしていることで俺とおっさんの格の違いを見せつけられる。
俺が一人で黙々とステーキを頬張っている一方、
おっさんは家族らしき人たちと一緒に和気藹々と食事を楽しんでいた。
彼らは身なりも良く、笑い方にも品があった。
余裕のある人たちなんだろうな、と思った。
なけなしの貯金をはたいて、初めて高級ステーキを口にした俺なんかとは格が違う。
人生最後の楽しみを味わおうと思っていたのに、何でか惨めな思いに駆られた。
そうして胸の奥に不快感を抱えつつ、俺は近所のコンビニに立ち寄った。
値段は格安のくせにアルコール度数はやたら高い、そういう酒がある。
今の俺にとってはうってつけの飲み物だ。
これを飲めば、高揚した気分のまま命を断つことができる。
そう思いながら、暗い夜道をトボトボと歩いた。
そんな中、また出くわしてしまった。
これで5回目になる、あのおっさんだ。
あのステーキ店で一緒にいた家族らしき人たちはどこへやら、今は彼一人だった。
夜風にでも当たりに来たのか、気分転換の散歩か。
どうでもいい。
身分も立場も何もかも満たされている奴が、
俺みたいな社会の底辺と同じ空間に存在しないでくれ!
身勝手な怒りを纏いながら、俺はツカツカと歩みを進めた。
例のおっさんとすれ違う。
すれ違ったまま、あのおっさんは俺とはまるで異なる人生を歩み続けるのだ。
それで良い。
勝手にすれば良い。
俺の、クソみたいな人生に更なる惨めさを与えないでくれ。
──そう思った時、耳をつん裂くような爆音が響き、強烈な光に包まれた。
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