ひそやかな英雄

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「…………」 気が付いたら、俺は見慣れた自宅アパートの部屋に寝転がっていた。 昨夜、突如として現れたトラックに轢かれて死んだと思ったのだが、 あれは夢だったのだろうか。 額に冷たい汗を浮かべながらテレビをつける。 『本日、4月1日の天気は……』 天気予報士が今日の天気を告げている。 俺にとっては3回目となる4月1日の天気を。 (これも夢か? 本当に夢なのか?) 不可解な思いを抱えつつ、俺は一度深呼吸をした。 手元の書類を確認したところ、3月末で勤めていた保険会社を退職した過去は変わっていない。 それを踏まえて、もう一度気の向くままに4月1日を過ごしてみることにした。 昼までダラダラと過ごして、コンビニに行き、パチンコ店に行き、電話で彼女から別れを告げられたその足で風俗店に行き、夜は安居酒屋で適当に食事を済ませた。 やはり、行く先々で黒縁眼鏡のおっさんに出くわした。 店内で見かけたり、隣に居たり、道ですれ違ったり…… そうして、その日の夜、暗い夜道を一人でとぼとぼと歩いていた時、 やはり例のおっさんは現れた。 訝しく思いながらも、俺はおっさんと目を合わせるわけでもなく ただただ通りすがりとしてやり過ごそうとした。 しかしその直後、けたたましい轟音と強烈な光に包まれて俺の意識は消えてしまった。 「…………」 見慣れた自宅アパートの部屋で目を覚ます。 窓から差し込む光が、朝を告げている。 テレビは……つけなくて良いだろう。わかってる、今日も4年1日だ。 陰鬱な世界で、心の支えとなるものも無く、俺は死ぬことすら出来ずにいる。 頭がおかしくなりそうだった。 否、こんなこと誰かに相談したら、頭がおかしくなったと思われるに違いない。 (いっそのこと開き直って、とことん4月1日を繰り返してやろうか) そんなことを考えつつ、俺は自宅アパートを出た。 何度も4月1日を繰り返すのなら、ひたすら楽しんでやろうとさえ思っていた。 そんなわけで、美術館、博物館、水族館を巡ってみた。 仕事で忙殺されていた頃なら、まるで意識の向かなかった場所だった。 興味本位で行ってみると、思いの外面白かった。 夜には気取ったバーに行ってみた。 店に入ると、黒縁眼鏡の例のおっさんが居た。 今回も、これで4回目の再会だ。 向こうは俺のことなんか知る由もないだろうけど。
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