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(しかし、何でこう何度も繰り返すんだろうなあ)
疑問を抱えながらちびちびとお酒を飲む。
その疑問は解消されないまま、俺はバーを出た。
暗い夜道をひとりトボトボと歩く。
きっと、今回もあのおっさんは現れるのだろう。
5回目の再会を果たして、そして──
(ああ、やっぱりな)
自宅アパートへ向かう道すがら、向かい側から歩いてくる男の存在に気付く。
小太りで黒縁眼鏡をかけた例のおっさんだった。
彼と目を合わせることもなく、ただすれ違うことを繰り返してきた。今までは。
だから──
「あの……」
「はい?」
すれ違いざまに、俺はそのおっさんに声を掛けた。
次の瞬間、突如としてトラックが現れた。
思わず、俺はおっさんの腕を引き寄せる。
そのトラックは、おっさんのすぐ後ろスレスレの所を通り、駆け抜けていった。
「…………」
しばらくの間、呆然とその方を見つめる。
もし、俺がおっさんの腕を引き寄せていなかったら、二人ともやられていただろう。
「おやおや、驚きましたな」
走り抜けたトラックを見つめつつ、おっさんがほっと息をつく。
その声で我に返った俺は、慌てておっさんから手を離した。
「あー……おっさん。
この道、ちょっと狭くて、車が通る時とか結構危ないから、気を付けて」
「これはこれは、ご親切にどうも」
おっさんは柔らかい物腰で頭を下げた。
つられるようにして俺も軽く頭を下げる。
それだけのやり取りだった。
そうして俺とおっさんは、それぞれの行くべき方向へ歩き始めた。
ほんのりと涼しい夜風が妙に心地良かった。
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