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運命だと感じた。
この魂が欲しいと思った。共に生きることが叶わねば、食ってしまうのもありだなとも本気で考えた。下衆の魂を取り込むのは、私の神格を下げる行為だとわかっていても。しかし、私はそれでは面白くないと留まった。
この魂が藻掻き苦しみ、輝く。その姿を見届けねばならない。
「心配しないで」
生まれ変わった先での仮初の家族に、その少女の魂は律儀に礼を述べた。そして、彼女は大きなリュックサックを背負って会いに行くのだろう。自分の魂と入れ替わったドーラに。
「急に旅だなんて、危ないわ。貴女、少し前まで事故で意識不明だったのよ」
母親が涙を流しながら娘の出立を邪魔する。
こんな存在、私にはなかった。自ら生み出た私には、母と言える存在は不必要だったのだろう。
「母さん、ドーラは決めたら頑として譲らない。信じてやろう」
そう父親に諭され、最後の挨拶を告げると彼女は車に乗って去って行った。
なんて純粋な魂なんだろう。これが運命の出会いと言わずして何という。
本人を前にして言葉にすることは憚られたが、私はその生きざまを見届けずにはいられないのだ。
「こら、あんた何してんの」
助手席に潜り込んだ私に、彼女はそう言った。
「心配だから、ぼくもついていくよ」
ドーラの八歳の弟が、彼女の隣でにこりと笑う。
姉は次のガソリンスタンドで降ろすしかないと頭を悩ませていたからか、何も気づくことはなかった。
弟の魂が、地獄の底までついて回る蛇とすり替わっていることなど。
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