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いつも隣を歩いていた。
そうやって僕はずっと、君のそばにいた。
浮き足立つほどに楽しいときも。辛くなり、折れて、前に進めなくなったときも。支え合い、寄り添い合い、僕らは常に一緒だった。
だから悲しまないで。
剥がれた底をパカパカと地面に打ちつけ、自分を責めたりしないで。
君は何も悪くない。原因があるとすれば、君に寄りかかり過ぎた僕のせいだ。負担を、重圧を、君にばかり背負わせてしまった僕のせいなんだ。
地面を叩いたり、引きずる音がするたび、同じように悲しくなった。心を共有するかのように、僕自身もすり減っていった。
不規則に鳴らしていた足音が、一つのショーウィンドウの前で止まる。
ガラスの向こうには、あの頃の僕たちのように、照明に照らされ艶やかに光る赤いハイヒールがあった。
体がふたたび動きだす。けれど右側の彼女だけは微動だにしない。頑なに拒否をしている。それが無駄な抵抗だということは彼女もわかっていて、それでもこの先の未来を想像すると、仕方のないことだと思った。
考えたくもないだろう。だけど容易に想像出来てしまうのだ。冷たく暗い場所。二度と太陽の下を歩けない未来。
石みたいにかたくなった彼女に寄り添うように、僕は隣に揃った。
大丈夫、思い描いた未来が現実になったとしても、僕がそばにいる。ずっと、必ず、君と共に居続ける。朽ちるそのときまで、君の隣に。
つま先が方向を変え、店の入り口へと向く。
僕の言葉に呼応するかのように静かにパカリと音を立て、その右足は、ゆっくりと動き出した。
そう、それでいいんだ。たとえ何がおこっても、僕は君の横にいる。
だって、僕たちは二つで一つなのだから。
完
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