「しわっしわな年老いたおじいちゃんになっても」

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 医者にもう長くないと余命宣告を受け、胸にぽっかりと穴が開いたように、空っぽになった。    自分の身体なのに、命なのに、自分自身で思うようにできないとこに、運命ってこういうことなのかと、バカらしく思った。  いつの間にか、足は病院の近くにある海に向かっていたようで、目の前には透き通った青色が広がっていた。  余命を待たずもうここで終わってしまおうと、海に流されて、消えたいと思った。  そんな僕の目の前に、水飛沫をあげて綺麗に泳ぐ姿に目を惹いた。  まるで、人魚のようだった。  綺麗に泳ぐ姿に見惚れていた。  僕も一緒になって泳ぎたくなって、服も脱がず、海へ駆け出した。  だんだんと服に重みを感じ、思うように動けなくなってきた。  僕は服を脱がなかったことに後悔しつつ、いっそのこと、このまま沈んでしまおうかと思った。  僕は抗うことをやめて、身を投げ出した。           *  目を覚ましたら、砂浜に横たわっていた。  あたりは真っ暗で、夜になったんだと、呑気に思った。  「気分はどう?」  心地よい声色が聴こえた。  「まぁまぁ、かな」と声が聴こえた方に顔を向けながら言った。  「まぁまぁ、か」  「君が助けてくれたの?」  「そうだよ。助けない方が良かった?」  「いや、どっちでもって感じかな」  「そっか。昼間、君が服を着たまま海に走っていくのを見かけて、身投げかなって思ったけど、あまりにも悲しそうな顔してたから、助けちゃった」  「ありがとう。君はここら辺の人なの?もう夜だけど大丈夫?」  僕は昼間のを見られていたのかと、少し恥ずかしくなって、話題を変えた。  「うん、大丈夫。ここら辺の人だから」  何だか含みがあるような言い方に、不思議に感じた。  「そっか、ここら辺の人か。まだ帰らないの?」  「助けた恩人に態度が素気ない気がするのは気のせいかな?」  「助けていただきありがとうございました。恩人様はまだお帰りにならないのでしょうか?」  そう言い直した僕に、君は満足気に「よろしい!」と笑顔を見せた。  「君こそまだ帰らないの?それとも、また海に身を投げ出すかい?」  その質問に対して、僕は答えることができなかった。    「またここに来て、君と話せるなら帰るよ」  「いつでも来るといいよ。いつでもいるから」  「そっか、ありがとう。じゃあ僕はお暇するよ」  空っぽだった胸に、君の優しさが染みてきたように感じた。
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