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それから僕は毎日のように、海に行き、君と色々なことを話をした。
お互い会っていくうちに惹かれ合っていると気づきながらも、何も言わなかった。
もどかしさを感じながらも、今のこの感じが心地よいとも思った。
お互いに惹かれ合っているとわかっていても、僕はもう長くないから、自分の病気のことを話した。
君は、そっか。とわかっていたように受け入れていた。
もしかしたら君は、僕が溺れて助けてくれたあの日から、わかっていたのかもしれない。
僕は君に好きだとは伝えない。
けれど、それっぽいことを伝えるよ。
「浦島太郎の話、知ってる?」
「知ってるよ。有名なおとぎ話だもん」
「僕が玉手箱を開けて、しわっしわな年老いたおじいちゃんになっても、ここで、僕と話してくれる?」
「いつでも来るといいよ」
「しわっしわなおじいちゃんの姿で、君に会ってみたかったな」
初めて死にたくないと思った。
しわっしわなおじいちゃんになっても、変わらずここで話していたい。生きていたい。そう思った。
「ずっと待ってるから」
君の優しさが、温もりが、僕の悴んだ心を溶かしていき、雫が頬を伝っていった。
いつものように、「また来るよ」と君に伝え、僕は君にお別れを言うこともできず、短命の運命を迎えた。
*
透き通った広々とした海を見ながら、砂浜を歩いていた。
水飛沫をあげて泳ぐ君の姿に見惚れた。
運命の出会いとはこういうことか、と思った。
「また会えたね」
心地よい声色に、懐かしさを感じた。
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