宣伝でしか知らなかった

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宣伝でしか知らなかった

 富山の薬売り。家庭用の常備薬を持って、一定期間で訪問してきて、使った分だけを補充してくれる。  そういった基礎知識は持っていたが、富山県でしか行われていないものだと大人になるまで思っていた。  ところが、家族経営の会社に勤めたときに、その会社が名前は違うが、富山の薬売りと同じ様に、定期的に来て、足りなくなった薬を補充していく。  これは、会社の社長の奥様が、社員がどれくらい薬を使ったのかを確認するために社員用に置いてあったものだった。  私は頭痛持ちで、自分の頭痛薬を常に持っていたが、その会社に入ってから、腹痛が多くなった。単純にストレスだ。非常にストレスの多い会社だったのだ。  自分の家に胃薬など置いたことがなかったので、ついつい会社の薬を飲んでいた。ある日社長の奥様に呼び出され(社長の奥さんは経理をやっていた) 「あなたね、会社の薬だってただじゃないのよ。そんなに頻繁に飲むなら自分で持ってくるのが常識じゃないの?!」  と、強く言われた。  それもそうだ。でも、それまで、会社の常備薬を使って怒られたことなどなかったので、結構驚いた。  それからは、普段使わない救急用の薬のポーチを持ち歩くようになり、二度と会社の常備薬は使わなかった。  代わりに私の席の近くの人は、私が大抵の常備薬を持っているのと、バンドエイドなども必ず持っているので、何かあると私の所に来るようになった。  バンドエイドなどは紙を使う仕事だったので、みんな良く紙で指を切って、その場合紙を汚さないようにすぐにバンドエイドが必要だったので、よく頼られた。  その後のコールセンター勤務では、頭痛薬を持っているのを知られていたので、よく頼られた。  でも、体調が悪かったり、怪我をしているからすぐに欲しいのだから自分で買ってよ。とは私は言えなかった。  常備薬のおくすりは私たちを助けてくれる、大切で便利なものだ。あると安心できるものでもある。  急を要する人にはこころよく分けてあげたいと私は考えるのだ。 【了】
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