大失恋

1/4
56人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

大失恋

 男女の最後というものは、こんなにも呆気ないものなのだろうか。 『別れよう』  視界に映るのは、SNSのメッセージ。たったの四文字で、私たちの関係は終わった。  真っ暗な画面を見つめて、ため息をつく。  あれから一週間。追加の連絡は一切ない。  分かっている。彼はそういう人だ。分かっているのに、未だに通知がきていないか画面を見てしまう。  いくら願っても、彼からのメッセージがくることなんて有り得ないのに。 「はぁ……」  想い続けて六年間。  焦がれてこがれて、ようやく手に入れた恋だった。  それなのに……。 「なにがダメだったのかなぁ……」 (自分なりに尽くしたつもりだったんだけど……)  彼――冬野(ふゆの)真宙(まひろ)くんと私は、高校と大学の同級生で、現在同じ職場に通っている。  高校生のときから真宙くんに片想いしていた私は、教師を目指していた彼を追いかけて同じ大学に進んだ。  真宙くんはすらりとした長身で、頭が良くて、爽やかで……女の子にものすごい人気で、彼女が絶えたことなんてほとんどない。  そんな彼に三度目の告白でいい返事をもらえたときは、本当に嬉しかった。  付き合って半年。たった半年……。  飽きっぽい彼に飽きられないように、自分なりに頑張ってきたつもりだったのに。  押し過ぎたのがいけなかったのか、尽くし過ぎたのがいけなかったのか。  真宙くん以外に経験がない私には、いくら考えても分からない。 「どうしたらよかったんだろう……」  ぽつりと呟いても、この部屋に答えてくれる人はいない。  真宙くんはもう、私のことなんてすっかり切り捨てて、同期の女の子と付き合い出している。 (未練なんて言葉、真宙くんは知らないんだろうな……。というか、彼氏どころか職まで失うとは……)  真宙くんの新しい彼女にSNSであらぬ書き込みをされて炎上。それが職場にバレてちょっとした騒ぎになり、仕事も辞めざるを得なくなった。  退職のときも、真宙くんは私にひとことも残すことはなかった。あまりにもあっさりし過ぎた態度に、付き合っていたこと自体夢だったのではないかと思ってしまう。 (結局、私ばかりが好きだったんだろうなぁ……)  彼のいるこの街を出ようと思って始めた荷造りも、なかなか進まない。だって、ここを出たら付き合ってた証すらなくなってしまいそうで。  部屋を見渡す。  この前までこの部屋に真宙くんがいたなんて信じられない。 (思えば私……真宙くんとお揃いのものとかなにも持ってなかったんだなぁ)  プレゼントは私からあげるばかりで、なにも返ってこなかった。べつになにかを返してほしかったわけじゃないし、そんなことはどうだっていいのだけど。  今さら思う。  真宙くんと一緒にいられることが嬉しくて、私はひとりで浮かれていたんだ。真宙くんの心を置いてけぼりにして。 「重かったのかな……」  殺風景な部屋の隅で項垂れていると、スマホが小さく振動した。 『明日の夕方、時間空けておいて! 午後五時半、池袋集合!』  高校時代からの親友・白峰(しらみね)沙羅(さら)からのメッセージだった。 「明日の夕方……」  どうしよう。  仕事を辞めて、やることもない。時間はいくらでもあるけれど、正直気が乗らない……。  続けてメッセージが届いた。  『実はね、私、好きな人ができたの!』 「えっ!」  思わず声が漏れる。 『だからね、桜にも会ってほしいなって思ってるんだ』  これまで仕事人間だった沙羅に、好きな人だなんて。これは大事件だ。  彼女には真宙くんのことでいつも相談に乗ってもらっていたし、今度は私が助けてあげなくちゃ。 『わかった。明日行く』
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!