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「おまたせ~」
数分後、波音がひとりの男性を連れて戻ってきた。
「お邪魔しまーす」
波音の隣には、例の男子・七木大雅さんがいる。
波音くんとそう変わらない高身長。小さな顔。
さすが、俳優さん。イケメンだ。
「……なに、これ?」
私と沙羅を順に見てから、不機嫌そうに波音を見る七木さん。どうやら、愛想はそんなによくはなさそう。
「あぁ。このふたりは俺の高校時代の同級生。七木のファンなんだって」
「わっ! 七木さん本物!」
沙羅の目がきらりと輝く。
「私、白峰沙羅っていいます!」
「……どうも」
七木さんはぺこりと頭を下げた。
「……あの、七木さん! 今日、このあと一度私と食事に行ってもらえませんか!」
沙羅が言う。
すごい。会って数秒で七木さんに食事を申し込んだ。
私にはこんな度胸はない。
「……まぁ、波音も行くなら行くけど、ふたりはちょっと」
あっさりだ。沙羅のような美少女を前にしても、七木さんの表情は崩れない。すごい。
「えっ……いや、それは……」
波音のほうが七木さんからさっと目を逸らした。それを見た七木さんが眉を寄せる。
「なんだよ? お前が誘ってきたのに行かないはなしだろ」
「いや、まぁそれはそうなんだけど……俺もできれば、桜とふたりで飲みに行きたくて」と波音。
「桜? ――あぁ」
七木さんはちらりと私を見た。
微妙な沈黙。
「……なんだ、そういうことか」
七木さんはなにやら波音に意味深な視線を送ると、沙羅を見て微笑んだ。
「分かった。俺でよければ飲み付き合いますよ」
「本当ですか!?」
沙羅の顔にパッと花が咲く。
「ありがと、大雅」
なぜか波音が礼を言う。
「いいよ」
(よかった……って、あれ。これってつまり、結局私も波音と飲みに行くことになってない?)
まぁいいか。
帰っても、どうせひとりきりの部屋なんだし。
(それにしても、波音……)
ちらりと波音を見る。
(かっこよくなったなぁ……)
嬉しいような、寂しいようなよく分からない感情が心を満たした。
***
その後、私たちは波音たちの帰り支度が済むまでふたりで飲みながら待つことにした。
場所は駅ビルのバー。
私たちは一足先にビールを飲みながら、女子会を始めていた。
「あぁ、もう! 部屋に入ったら波音がいるんだもん。びっくりしたよ」
「あははっ! 桜が驚く顔が見たくて黙ってた。ごめんね~」
謝りながらも、沙羅はまったく悪びれていない。
「沙羅、いつから波音と?」
「あぁ、この前バラエティの収録でテレビ局行ったときにたまたま顔を合わせたの。それから連絡取り合うようになって、私の推しと共演が決まったってことでチケットもらったってわけさ」
(世間って狭いんだな……)
「波音、2.5次元俳優の中ではダントツ人気あるんだよね。波音がやる舞台は一瞬でチケットなくなるの。本人もほとんどチケットもらえないらしくて、今回は頼み込んでなんとかもらえたんだよ」
「へぇ……すごいなぁ。そういえば波音、高校時代から俳優になりたいって言ってたもんね」
「あの頃から女子人気絶大だったし」
「そうだったの?」
「まぁ、桜は冬野くんにベタ惚れだったから気付いてなくても仕方ないけど。でもね、桜。桜は波音と仲が良かったから、結構女子から嫉妬の対象になってたんだよ~?」
「えっ!」
沙羅がにやっと笑いながら私を見る。
「そうだったの!?」
「うん」
「うわぁ……それは悪いことしてたな……」
ちびっとビールを飲みながら過去を懐古する。
――と。
「なにが悪いことなの?」
不意に耳元で甘い声が響いた。
「わっ!」
驚いて振り向くと、そこには波音と七木さんがいた。
「波音……!」
「七木さん!」
驚いた私の声と、沙羅の歓喜の声が重なる。
「もう、驚かせないでよ!」
「待たせてごめんね」
「お疲れ様です、七木さん。今日は時間作っていただいてありがとうございます!」
「……どうも」
七木さんがぺこりと頭を下げる。
小一時間ほど四人でお酒を飲んでから、それぞれに別れることになった。
「さて、それじゃ桜。行こうか」
「沙羅、今日はありがとう。またね」
「うん。また連絡するね」
沙羅と別れて、私は波音と店を出た。
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