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「新薬が出てさ。今度試してみない?
飲んですぐ効いて、翌日に眠気が残りにくいって聞いたよ」
俺の病院でもらえそうならもらってくるから、と続ける朝陽に首を横に振る。
「心療内科の先生とよく相談してくる。それに、朝陽くんにそういうことで甘えるのはダメだよ」
そっか、と呟く朝陽の腕に力が入った。
「無理はしないでね」
「うん。私はそろそろ支度しようかな。朝陽くんはもう少し寝てて」
「俺も起きるよ。心配な患者さんもいるし、早く出ようかなと思ってたんだ」
朝陽は嘘が上手だ。
麻酔科医の朝陽は、手術前の患者の回診に行くことはあるが、多くの患者を受け持つことはないのに。
ひとみは自分が不甲斐なくてため息をついた。
眠れなくなり、睡眠薬を常飲するようになってから悪夢ばかり見るようになった。
目覚めは最悪で、眠れても精神は疲れ果てている。
そうなるとますます眠るのが怖くなる。
仕事へ影響を出さずにいられるのにも限界がある。
朝陽の言葉に甘えてしまいたい。
でも、好きな仕事だ。諦めたくない。
「今回の薬は大丈夫だといいけど……」
新たに処方された薬を1錠飲むと、1時間も経たないうちに足元がふわふわしてきた。
朝陽の体温が残るクイーンベッドに潜り込んで、ひとみはすぐに意識を手放した。
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