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ほんの少し僕たちは、たぶん出会うのが遅すぎた。遅くて、もう届かなくて、僕は彼女の泣きそうな顔を見ることもかなわない。
ポツン、と頬に雫が降る。
どこまでも晴れた夕方なのに、雨が一滴だけ、風に流されて僕を濡らす。それは涙のよう
だった。ずっと姿の見えないソラの透明な印のようだった。
--繋がってくれて、ありがとう。
その声はもう半分以上、黄昏の空に混ざりながら、どんどん遠ざかっていく。
僕は、「ソラ!」と呼びたかった。泣き叫びたい気持ちだった。その代わりにうずくまって、なんとか嗚咽を飲みくだす。頬を濡らした一滴をそっと指ですくい取る。そこにソラの体温が宿っているような気がして、固くこぶしを握りしめる。
顔をあげると一面、まぶしい夕焼けが広がっていた。ソラと初めて会った日も、とても空が綺麗だった。
「さようなら」
僕は遠い空につぶやく。その声はもう消えていく彼女には届かないだろう。僕はしばらくその場にひとり立ちつくしたまま、ソラと交わした最後の言葉をずっと反芻し続けていた。
その数週間後―― 僕は、マンションから飛び降りた。それを決行したのは、単純に僕が弱かったからだ。そして死ぬ日を決めていたから。ソラが言っていた通り、僕は「自殺する日」を目指して毎日生きていた。そうしないと、降りかかる残酷な日常をやり過ごすことができなかった。
死ぬのはとても簡単だった。ある程度の高さがあって、地面がコンクリートであれば、間
違いなく死ぬことができると僕はすでに知っていた。植え込みがあったり、駐車場の屋根があると助かってしまう。僕は慎重に場所を選び、人通りの少ない深夜を狙って自殺した。
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