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1ヶ月前、大学の頃から12年間付き合った同じ歳の彼と別れた。
12年付き合って私も30歳を超えたのに、結婚に至らなかった。
そんな関係にケジメをつけるキッカケをくれたのが会社の同期の遠藤くんだった。
《藤田が結婚したいなら、そんな奴別れろよ。
12年も付き合って彼女が30歳過ぎたのに、それはないだろ。
普通はそんなことしないぞ。
誰にもハッキリ言われないから決めかねてるんだろ?
キッカケが無いから。
だったら俺が背中押してやるよ。
そいつはダメだ。》
同期仲間の柴ちゃんから私と彼との事を聞いた遠藤くんは、ハッキリと強く言った。
きっと私のまわりの友達も思っていただろうけど言わなかったこと。
私も薄々わかっていたこと。
私が《こんなもの》とか《これが普通》などとやり過ごしていたことを気付かせてくれた。
私は感謝しているのに本人はキツいことを言ったと気にしているようで、別れた報告をした時『明日は高尾山に行こう』と誘ってくれた。
自然の中に身を置きたい気分だったから、彼女はいないという遠藤くんに甘えることにした。
朝8:00、車でマンションまで迎えに来てくれて高尾山に向かう。
9月最初の週末はまだ真夏の暑さと同じくらいだったけど、ふとそよぐ風に秋の匂いがした。
夏休みも終わり、紅葉にはまだ早いこの時期のゴンドラは空いていた。
ゴンドラで上がって、サル園に入り、薬王院を通って山頂まで歩く。
こんなに甘いコースなのに息が上がってしまい、明後日の月曜日からは一駅分歩こうと心に決め、遠藤くんにも宣言した。
山頂の見晴らしの良いところで、景色に見とれて色んなことに考えが巡りはじめた。
汗だくの顔と体に風をうけて、無になりたいと願う時間。
どのくらいのそうしていたのかな。
気が付くと遠藤くんはちょっと離れたところに座ってこちらを見ていた。
ひとりの時間を大切にしてくれた気遣いが身に染みた。
ありがとうと思いながら遠藤くんのところに近づいていくにつれて、汗だくでお化粧も剥げ落ちているであろう自分に気が付いて急に恥ずかしくなった。
『汗で仮面が剥がれたよー。
恥ずかしい。』
『これだけ暑けりゃ普通だろ。
それに最初との違いがわからねぇ。』
本当にわからないのか気を遣ってくれているのか…どちらにしても、どうしてこの人はいとも簡単に私の心を軽くしてくれるんだろう。
遠藤くんには敵わないなぁ。
その後、お蕎麦を食べたりアイスを食べたり、そして帰りはリフトで下って、楽しい時間を過ごした。
そして送ってもらいがてら、私のマンション近くのファミレスに入って夕ご飯も一緒に食べた。
汗や土でぐちゃぐちゃの自分を気にせずに、まだ話していたいと思ってしまった。
歩くの楽しかったよと言うと、嬉しそうに『じゃあ来週は靴を見に行こう。』と約束した。
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