噂の妙薬

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噂の妙薬

「結衣、だいじょうぶ? 顔色悪いよ?」 顔を上げると友人の朱莉の顔が目に入った。心配している表情だ。 「大丈夫だよ。」 そう答えるものの、その声は自分でも分かるくらいに力がなかった。朝からずっと頭痛がひどいのだ。 「そっかぁ……でも無理しないでね!」 「うん、ありがとう。ごめんね、ちょっと用事があってさ……。」 放課後の教室には、もうほとんど生徒の姿はない。いつもなら友人と喫茶店で勉強をして家に帰るなど宿題を外で終わらせるのだが今日だけは違った。早く帰らなければならない理由があったのだ。私は席を立つと、急いで学校を出た。 ー帰宅後ー 「ただいまー……。あれ、お母さんいないんだっけか。」 玄関から家の中に向かって声を掛けると、兄がリビングの方から出て来た。 「おかえり、結衣。母さんなら買い物に行ったぞ。」 「あ、そうなんだ……ってお兄ちゃん!?なにしてんの!!」 思わず大きな声で叫んでしまった。 頭痛すら消し飛んだような気がする。しかし、兄の手に握られていたものを見てしまっては仕方がないと思う。 「何って……お前そんな大げさに驚くようなことじゃないだろう。」 「いやだって、それ……なんで持ってるの!?」 「貰ったんだよ、通行人のじいさんから。」 「これ、ネットで噂になってる薬に似てるけど。なんで貰うわけ!?知らない人から物を貰っちゃダメでしょう!」 私のツッコミを受けて、 「まあまあ落ち着け。」 と言いながら宥めてくる兄だが落ち着けるはずがない。 兄の手から薬をかっさらうとゴミ箱に投げ入れた。投擲が苦手な私だが今回はすこぶるうまくいった。 間もなく 『パリーンッ』 ゴミ箱からは割れる音がした。 やってしまった。私はやってしまったのだ。分別間違いを。 瓶と錠剤に分けなければいけないのに、瓶を割って危険物にした挙句、ゴミ箱から破片を探さなければいけなくなってしまったのだ。 兄が手伝ってくれたため、どうにか処理することができたが、 「衝動を抑えろ。」 とこっぴどく怒られてしまった。 そもそも、兄が知らない人から薬いや、ものを貰わなければこんなことにはならなかったというのに。心配した上の行動だったのに、理解してくれないなんて拗ねてやる。 それにしても、市販のものとは入れてある容器が違うんだな。 私の時は……。
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